古代史の中のコトバ

  1. はじめに
  2. 倭人伝
  3. 天皇名
  4. 地名
  5. 稲荷山出土鉄剣銘
  6. 古代語解釈の基礎

語源でとく古代大和(本)

  1. 書籍紹介
  2. 動画解説

真説―古代史

  1. 目子媛の「草香」
  2. 「橘」という勢力

談話室

  1. うましうるわし

稲荷山古墳出土鉄剣


  埼玉の稲荷山古墳出土の金象嵌鉄剣銘や熊本の江田船山古墳出土の銀象嵌鉄刀銘に雄略を表す「獲加多支鹵大王」の名が刻まれていることはよく知られている。
  稲荷山出土鉄剣には被葬者の乎獲居臣に至る八代の祖先の名がある。

最初のオホヒコは大彦だが、他はあまり解されてないようである。これは次のように解される。

タカリ宿禰(タ=強調辞、カリ=離る。 遠い昔の)
テイカリ別(テ=タと同じ・次のイによる音韻変化、イ=強調辞、カリ=離る)
タカヒシ別(タカ=高、ヒシ=犇めく・押している。びっしりとつまって高い、高祖)
タサキ別 (タ=強調辞、サキ=先。ずった先の)
ハテヒ  (ハテ=果て・端、ヒ=ムスヒのヒ・人。遠方の人、果てた=死んだ人)
カサヒヨ (カサ=重・上の、ヒ=人、ヨ=台与のヨなどの類・人名語尾。先代)

(解説)
  二番目のテイカリだが、日本語では母音が語中にくることはほとんどなく、くるとしたらイの場合、まず強調辞が候補になる。強調辞については「解釈の基礎」参照。イが強調辞だとすると語頭のテは、この強調辞にひかれてタがテと変わったもので、最初のタカリと同じ語だろうということになる。するとタカリはタカ+リではなく、タ+カリと分けられる。カリは、
  カル(離る)=離れる。うとくなる。遠のく。
の名詞形と解される。

他の語はタカ・ヒシ、タ・サキ、ハテ・ヒ、カサ・ヒヨと分けられ、タカヒシの「高」、タサキの「先」、ハテヒの「果て」、カサヒヨの「重」など、先祖高祖という場合の「先」や「高」に類する言葉が多く含まれているのがわかる。「含まれている」というよりはそれが語の中核になっている。つまり鉄剣に書かれた祖先の名というのは個人名ではなく、「ずっと先の人」「果てしなく遠い人」「先代」と言った種類の語と考えられるのである。
  当人の乎獲居自体、ヲ別だとすると名称に当たるのは「ヲ」一語である。これも「雄」のような一般名称だろう。今日でいえば大将というような言い方がそのまま人名となっているわけである。この時代の地方豪族において個人的特称が発達しているようには見えず、従って鉄剣の先祖名も、先祖の様々な言い方でしかないという方がむしろ時代に合っている。

大彦を四道将軍の大毘古命にあてるような説があるが、「オホ=大」はごく一般的な名称であって、普通名詞に近い。先祖の名は太郎だと言っているようなものである。このような一般的な名を特定の人物に結びつけるのは適切ではないし、まして大彦以下の名がたんに先祖とか先々代と言った種類の語であるとすれば、大彦というのもそれらと同種とみるべきであろう。